証券口座を開くとき、多くの人が迷うのが「特定口座の源泉徴収ありと源泉徴収なし、どっちを選べばいいの?」という画面です。あとから「変更できる?」「扶養に影響する?」と気になって調べる人も少なくありません。
この記事では、国税庁のタックスアンサーと自治体・厚生労働省の公開資料をもとに、源泉徴収あり・なしの違いの一覧、どっちが向いているかの考え方、20万円ルールと住民税、扶養の判定への影響、損益通算と繰越控除、変更できるタイミングを整理します。税額はモデルケースの概算で、個人の税額や有利・不利を判断するものではありません。
特定口座とは:一般口座・NISA口座との違い
株式や投資信託を売って得た利益(譲渡益)には、20.315%(所得税15%・住民税5%・復興特別所得税)の税金がかかります(国税庁 No.1463)。この税金の計算をだれがするかで、口座の種類が分かれます。
| 口座の種類 | 利益の計算 | 確定申告 |
|---|---|---|
| 特定口座(源泉徴収あり) | 証券会社が計算し、税金も差し引いて納める | 原則不要(申告することも選べる) |
| 特定口座(源泉徴収なし) | 証券会社が計算し、「年間取引報告書」を作る | 報告書を使って自分で申告する |
| 一般口座 | 自分で1年分の利益を計算する | 自分で計算して申告する |
| NISA口座 | 配当や譲渡益は非課税 | 不要(損失は「ないもの」とみなされる) |
特定口座は、1つの証券会社などにつき原則1口座です(国税庁 No.1476)。特定口座の利益は、特定口座以外の株式等の利益とは分けて計算されます。横浜市の「金融・証券税制のしくみ」も、一般口座で取引した場合は年間の譲渡益を自分で計算して確定申告する必要があると説明しています。NISA口座の非課税のしくみは新NISAの仕組みの記事で解説しています。
源泉徴収あり・なしの違い(一覧表)
ひとことで言うと:「あり」は売るたびに税金が引かれ、確定申告をしなくてよい口座。「なし」は税金は引かれず、年間取引報告書で自分で申告する口座。税率はどちらも同じ20.315%です。
| 項目 | 源泉徴収あり | 源泉徴収なし |
|---|---|---|
| 売って利益が出たとき | そのつど15.315%(所得税+復興特別所得税)と住民税5%が差し引かれる | 差し引かれない(申告して納める) |
| 確定申告 | 原則不要(申告不要にできる) | 原則必要 |
| 会社員の20万円ルール | 関係なく、利益が少なくても税金が引かれる | 給与以外の所得の合計が20万円以下なら所得税の確定申告は不要(住民税の申告は必要) |
| 同じ口座の中の損益 | 口座の中で自動で差し引きされる | 年間取引報告書の金額で申告する |
| 配当の受け入れ | 届け出れば口座で受け取れ、口座内の損失と差し引いて源泉徴収 | — |
| 扶養の判定(合計所得金額) | 申告しなければ含まれない | 申告するので含まれる |
※源泉徴収ありの説明は国税庁 No.1476、20万円ルールは国税庁 No.1900、住民税の申告は横浜市、扶養の判定は国税庁 No.1190・No.1331 によります。
2027年から税金の内訳が変わる(合計の税率は同じ)
令和9年(2027年)1月1日以後に生じる所得は、復興特別所得税の税率が1.1%に下がり、新たに防衛特別所得税(源泉徴収すべき所得税額の1%相当)も源泉徴収されます(国税庁 No.1476)。国税庁 No.1331 は、配当等について合計の税率は変わらないと説明しています。年間取引報告書の欄が変わることはあっても、手取りの計算はこれまでと同じと考えてよいでしょう。
どっちがいい?向いている人の考え方
どちらが得かは、利益の大きさ・ほかの所得・家族の扶養の状況・確定申告をするかどうかで変わります。下は、上の制度から当サイトが整理した考え方の目安です。
| こんな人 | 考え方 |
|---|---|
| 確定申告をしたくない・したことがない | 「あり」なら証券会社が納めるので、申告しないで済む |
| 会社員で、株・投資信託の利益を含む給与以外の所得が年20万円以下に収まりそう | 「なし」だと所得税の確定申告が不要になり、所得税分(15.315%)がかからない場合がある。ただし住民税の申告は必要で、ほかの理由で確定申告をする年は利益も申告する |
| 会社員の扶養に入っている配偶者・家族 | 「あり」で申告しなければ、利益は扶養の判定の合計所得金額に含まれない |
| 個人事業主・年金生活者など、毎年確定申告をする人 | 「なし」で申告するか、「あり」で申告不要にするかを選べる。申告すると合計所得金額に入る点に注意 |
| 複数の証券会社の損益を合わせたい・損失を繰り越したい | どちらでも確定申告が必要。「あり」でも申告すれば損益通算できる |
20万円ルールの注意点
- 所得税だけのルール:国税庁 No.1900 の「各種の所得金額(給与所得、退職所得を除く。)の合計額が20万円を超える人」は確定申告が必要、という決まりで、住民税にはこの例外がありません。横浜市は、給与以外の所得の合計が20万円以下の人も住民税(市民税・県民税)の申告が必要としています
- 副業などと合計する:20万円は、株の利益だけでなく副業の所得なども合わせた金額で判断します
- 確定申告をする年は含める:医療費控除やふるさと納税(ワンストップ特例を使わない場合)で確定申告をする年は、20万円以下の利益も申告に含めます。くわしくは副業20万円以下は確定申告不要?6つの誤解の記事で解説しています
- 年の途中で見通しは変わる:売る前には年間の利益がいくらになるか分からないので、「なし」を選んで想定より利益が大きくなると、確定申告が必要になります
4つのモデルケースで税額を比べる
上の税率に当てはめた、当サイトのモデルケースです(1円未満の端数や配当は考えない概算。株式等の利益以外の所得の条件は、表に書いたとおりとします)。
| モデル | 源泉徴収あり | 源泉徴収なし |
|---|---|---|
| Aさん:会社員(給与1か所・年末調整済み)、ほかの副業なし。1年の利益10万円 | 約2万315円が引かれて終わり(所得税等1万5,315円+住民税5,000円) | 所得税の確定申告は不要。住民税の申告をして住民税5,000円。差は約1万5,000円 |
| Bさん:Aさんと同じ条件で、1年の利益50万円 | 約10万1,575円が引かれて終わり | 確定申告が必要。税額は同じ約10万1,575円で、手間が増えるだけ |
| Cさん:Aさんと同じ条件で利益10万円だが、医療費控除で確定申告をする | 申告不要を選べば約2万315円で終わり | 申告に利益も含めるので、税額は約2万315円。差はなくなる |
| Dさん:A社の特定口座(あり)で利益30万円、B社の特定口座(あり)で損失30万円 | A社で約6万945円が引かれる。確定申告で損益通算すると、差し引き0円になる目安 | —(どちらの口座も「なし」でも、申告して差し引き0円) |
モデルケースから分かること
- 「なし」が有利になりうるのは限られた場面:Aさんのように、会社員で給与以外の所得が20万円以下に収まり、ほかに確定申告をしない場合です。Cさんのように確定申告をすると差はなくなります
- 利益が大きいと税額は同じ:Bさんのように20万円を超えると、どちらでも20.315%で、違いは「だれが納めるか」と手間だけです
- 複数の証券会社は申告で合わせる:Dさんのように別の会社の損益は自動では差し引きされません。確定申告をしないと、損失があっても利益の分の税金は戻りません(国税庁 No.1476・No.1474)
扶養・保険料への影響:申告するかどうかで変わる
扶養の判定:申告しなければ合計所得金額に含まれない
配偶者控除・扶養控除を受けるには、配偶者や家族の合計所得金額が一定以下である必要があり、令和8年分は62万円以下です(国税庁 No.1180・No.1190)。国税庁 No.1190 は、次のものは合計所得金額に含まれないとしています。
- 特定口座の源泉徴収選択口座内の株式等の譲渡による所得で、確定申告をしないことを選択したもの
- 上場株式等の配当など確定申告不要制度の対象となるもので、確定申告をしないことを選択したもの
つまり、扶養に入っている家族が「源泉徴収あり」の口座で利益を出しても、確定申告をしなければ扶養の判定には影響しません。反対に、「なし」で申告したり、「あり」でも損益通算などのために申告したりすると、その所得は合計所得金額に入ります。国税庁 No.1331 によると、損益通算の特例を使ったときは通算したあとの金額、繰越控除を使ったときは控除する前の金額で判定します。
住民税:所得税と同じ課税方式になる
以前は、所得税は確定申告をして、住民税は申告不要にする、といった別々の選び方ができました。令和6年度(令和5年分の所得)からは、所得税で選んだ課税方式が住民税にも適用され、異なる方式は選べなくなっています(横浜市「令和6年度からの税制改正」)。
後期高齢者医療の保険料:2029年8月から反映する案
検索でも多い「特定口座 社会保険料 いつから」についてです。厚生労働省の資料によると、いまは上場株式の配当などは確定申告をすれば市町村が所得を把握できて保険料・窓口負担に反映され、源泉徴収だけで申告しなければ反映されないという不公平があります。
これを直すため、2026年6月5日公布の健康保険法等の改正法(令和8年法律第31号)で、金融機関などが法定調書を後期高齢者医療広域連合へオンラインで出す義務が設けられました。2026年10月16日の社会保障審議会医療保険部会では、オンライン提出義務化を2029年1月、保険料・窓口負担への初回反映を2029年8月とするスケジュールの案が示されています。対象は後期高齢者医療制度(原則75歳以上)で、時期は案の段階です。今後の決定は厚生労働省の発表で確認してください。
損失が出たとき:損益通算と3年の繰越控除
- 同じ口座の中:源泉徴収ありの口座では、口座の中の利益と損失は差し引きされます。届け出て配当を口座で受け取っていれば、譲渡損失を配当から差し引いた額に源泉徴収されます(国税庁 No.1476)
- 別の口座と合わせる:ほかの証券会社の口座の損益と相殺するには、確定申告が必要です(同)
- 使いきれない損失は3年間繰り越せる:上場株式等の譲渡損失は、確定申告をすれば翌年以後3年間、上場株式等の譲渡所得等や配当所得等から差し引けます。繰り越すには、売買がなかった年も毎年続けて申告が必要です(国税庁 No.1474)
- NISA口座の損失は対象外:NISA口座の損失は損益通算・繰越控除ができません(同)
- 配当もいっしょに申告:源泉徴収ありの口座の譲渡損失を申告するときは、その口座で受け取った配当なども申告不要にできず、あわせて申告します(国税庁 No.1476)
配当を申告する場合は、総合課税か申告分離課税かを、申告する配当の全額について選びます。一度選んだ方式は、あとから修正申告や更正の請求で変えられません(国税庁 No.1331)。
変更方法:年の最初の売却までに届け出る
変更のルール:源泉徴収を選ぶかどうかは1年ごと。その年の最初の売却の時までに「特定口座源泉徴収選択届出書」を出すと「あり」になり、年の途中で「なし」に変えることはできません(国税庁 No.1476)。
- 変えたい年に、まだ一度も売っていない:証券会社のサイトや書面で変更の手続きができる場合が多いので、各社の案内で手順と締め切りを確認します
- その年にもう売った:その年は変えられず、翌年の最初の売却までに手続きします
- 配当を口座で受け取る:源泉徴収ありの口座で配当を受け入れるには、「源泉徴収選択口座内配当等受入開始届出書」が必要です(同)
いまの設定の確認方法
自分の口座が「あり」か「なし」かは、証券会社のサイトの口座情報(お客様情報)の画面や、年が明けて届く特定口座年間取引報告書で確認できるのが一般的です。表示の場所は会社ごとに違うので、各社のヘルプで確かめてください。証券会社ごとの手数料のちがいはネット証券の手数料比較でまとめています。
確定申告をする年は、株の損益だけでなく、ほかの控除もいっしょに申告できます。たとえば住宅ローン控除は1年目に確定申告が必要です。くわしくは姉妹サイトの不動産研究所「住宅ローン控除2026|いくら戻る?」で解説しています。医療費控除で戻る金額の目安は医療費控除はいくら戻る?の記事をご覧ください。
出典・注意書き
基準日:2026年11月時点(各ページ・資料は2026年11月3日に確認。国税庁のタックスアンサーは令和8年4月1日現在法令等)
- 国税庁 タックスアンサーNo.1476「特定口座制度」:https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1476.htm
- 国税庁 タックスアンサーNo.1463「株式等を譲渡したときの課税(申告分離課税)」:https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1463.htm
- 国税庁 タックスアンサーNo.1474「上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除」:https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1474.htm
- 国税庁 タックスアンサーNo.1331「上場株式等の配当等に係る申告分離課税制度」:https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1331.htm
- 国税庁 タックスアンサーNo.1900「給与所得者で確定申告が必要な人」:https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1900.htm
- 国税庁 タックスアンサーNo.1190「配偶者の所得がいくらまでなら配偶者控除が受けられるか」:https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1190.htm
- 国税庁 タックスアンサーNo.1180「扶養控除」:https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1180.htm
- 横浜市「金融・証券税制のしくみ」:https://www.city.yokohama.lg.jp/kurashi/koseki-zei-hoken/zeikin/faq/answer7.html
- 横浜市「令和6年度からの税制改正」(上場株式等の配当所得等に係る課税方式の一致):https://www.city.yokohama.lg.jp/kurashi/koseki-zei-hoken/zeikin/y-shizei/kojin-shiminzei-kenminzei/kaisei/zeiseikaiseiR6.html
- 横浜市「市民税・県民税の申告」:https://www.city.yokohama.lg.jp/kurashi/koseki-zei-hoken/zeikin/y-shizei/kojin-shiminzei-kenminzei/kojin-shiminzei-shosai/shiminzei-shinkoku.html
- 厚生労働省「後期高齢者医療制度における金融所得の公平な反映のスケジュールについて」(第218回社会保障審議会医療保険部会 資料3・令和8年10月16日):https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/001759824.pdf
- 4つのモデルケースの税額は、上の資料の税率をもとに当サイトが計算したものです(1円未満の端数は考えていません)。
ご注意
- この記事は特定口座の源泉徴収の制度の一般的な解説で、税額はモデルケースの概算です。実際の税額や申告の要否は、所得やほかの控除の状況で変わります。個別の税額・申告の判断は、税務署・お住まいの自治体・税理士にご確認ください。
- 後期高齢者医療の保険料への反映の時期は、厚生労働省が示した案の段階です。税制や制度は今後の改正で変わることがあります。
- 株式や投資信託は値動きがあり、売ったときに損失が出て元本割れになることがあります。当サイトは特定の金融商品の売買や証券会社をおすすめするものではありません。
- 口座の設定や投資の最終判断は、ご自身でお願いします。

