保険を見直すとき、いきなり商品を比べる前に確認したいのが、国や健康保険がすでに用意している保障(公的保障)です。病気で医療費がかさんだとき、働けなくなったとき、万一のことがあったとき、公的な制度がどこまで支えてくれるのかを知ると、民間の保険で備えるべき範囲が見えてきます。
この記事では、厚生労働省・日本年金機構・全国健康保険協会(協会けんぽ)・生命保険文化センターの資料をもとに、公的保障の仕組みと、必要な保障額の考え方を解説します。特定の保険商品をすすめるものではありません。
見直しの順番:公的保障 → 必要保障額 → 不足分
| 順番 | やること | この記事の章 |
|---|---|---|
| 1 | 公的保障でどこまでカバーされるかを知る | 医療費・働けないとき・万一のとき |
| 2 | 万一のときに必要な金額(必要保障額)を計算する | 必要保障額の考え方 |
| 3 | 足りない分を、貯蓄や民間の保険でどう備えるか決める | 生命保険の種類・加入前の確認 |
先に商品を見ると、必要以上の保障を持つことになりやすくなります。まずは公的保障を知るところから始めます。
医療費:高額療養費制度(令和8年8月に見直し)
厚生労働省によると、高額療養費制度は、医療機関や薬局の窓口で支払った額が、暦月(月の初めから終わりまで)で一定額を超えた場合に、超えた金額を支給する制度です。この「一定額」が、年齢と所得で決まる自己負担の上限額です。
令和8年8月から、この制度が見直されました。厚生労働省のページ(2026年7月31日更新)には、次の変更が載っています。
- 年間上限の新設:月ごとの自己負担が積み上がっても、年間の上限額に達した後は、保険者から還付を受けられます。年間は8月から翌年7月までです
- 多数回該当は据え置き:直近12か月に高額療養費に該当した月が3か月以上あると、4か月目以降は上限額がさらに下がる仕組みです。この金額は今回の見直しでも変わりません
- 令和9年8月の予定:所得区分の細分化などが予定されています
令和8年8月以降の、70歳未満の自己負担の上限額は、次のとおりです(厚生労働省の資料にある年収の目安ごと)。
| 年収の目安 | 月の上限額 | 4回目以降(多数回該当) | 年間上限 |
|---|---|---|---|
| 約1,160万円〜 | 270,300円+(医療費-901,000円)×1% | 140,100円 | 168万円 |
| 約770〜約1,160万円 | 179,100円+(医療費-597,000円)×1% | 93,000円 | 111万円 |
| 約370〜約770万円 | 85,800円+(医療費-286,000円)×1% | 44,400円 | 53万円 |
| 〜約370万円 | 61,500円 | 44,400円 | 53万円(一部の方は41万円) |
| 住民税非課税 | 36,900円 | 24,600円 | 29万円 |
厚生労働省のページにある例では、70歳未満・年収約370万円〜約510万円の方が、医療費100万円の治療を受けた場合の自己負担は約9.3万円です(表の式で、85,800円+(1,000,000円-286,000円)×1%=92,940円)。窓口で3割の30万円を払っても、上限を超えた分が支給される形になります。
知っておきたい点は次のとおりです。
- 対象外の費用がある:厚生労働省のリーフレットでは、入院時の食費負担や差額ベッド代などは、高額療養費の計算に含まれないと説明されています
- 合算できる:同じ月の複数の医療機関の自己負担や、同じ医療保険に入っている世帯の人の自己負担は合算できます。70歳未満の場合は、2万1千円以上の自己負担のみが合算されます(厚生労働省のリーフレット)
- 窓口の支払いを抑える方法がある:「限度額適用認定証」などを出すか、マイナ保険証を使うと、外来・入院とも窓口では上限額までの支払いで済みます(厚生労働省)。加入している健康保険組合・協会けんぽ・市区町村に確認します
- 自分の区分は加入先で決まる:年収の目安は健康保険の標準報酬月額や、国民健康保険の所得で区分されます。自分がどの区分かは、加入先の保険者で確認します
つまり、病気やケガで大きな医療費がかかっても、保険診療の範囲なら、月の自己負担には上限があります。民間の医療保険で備えるのは、この上限を超えて自己負担になる費用(差額ベッド代など)や、収入が減る期間の生活費が中心になります。
働けないとき:傷病手当金
協会けんぽによると、傷病手当金は、病気やケガで仕事を休み、給与を受けられないときに、健康保険から支給される給付金です。次の4つをすべて満たす必要があります。
- 業務外の事由による病気やケガの療養のための休業であること(業務上・通勤災害は対象外)
- 仕事に就くことができないこと
- 連続する3日間を含み、4日以上仕事に就けなかったこと
- 休業した期間について、給与の支払いがないこと(給与が傷病手当金より少ない場合は、その差額が支給される)
| 項目 | 内容(協会けんぽ) |
|---|---|
| 待期期間 | 仕事を休んだ日から連続3日間。4日目以降の休業日が支給の対象。有給休暇や土日・祝日も待期に含まれる |
| 1日あたりの支給額 | 標準報酬月額の平均額 ÷ 30 × 3分の2(例:平均が17万円なら1日3,780円) |
| 支給期間 | 支給を開始した日から通算して1年6か月 |
支給額は、働いていたときの収入のおおよそ3分の2です。ただし、これは協会けんぽ(会社員などが加入する健康保険)の仕組みです。加入している健康保険の種類によって、給付の内容は違います。自営業・フリーランスの方などは、加入先の制度(国民健康保険など)で、傷病手当金に当たる給付があるかを確認してください。
万一のとき:遺族年金
日本年金機構によると、亡くなった方に生計を維持されていた遺族に支給される年金には、遺族基礎年金と遺族厚生年金があります。
遺族基礎年金
- 対象:亡くなった方に生計を維持されていた「子のある配偶者」または「子」。ここでいう子は、18歳になった年度の3月31日までの方、または20歳未満で障害年金の障害等級1級・2級の状態にある方です
- 子がいない場合は受け取れません:対象が「子のある配偶者」と「子」のためです
- 主な要件:国民年金の被保険者の間に亡くなった場合などで、死亡日の前日までの保険料納付済期間(免除期間を含む)が加入期間の3分の2以上必要です(令和18年3月末日までの死亡で、死亡時65歳未満なら、直近1年間に未納がなければ満たします)
| 令和8年度(令和8年4月分から) | 年額 |
|---|---|
| 基本額(昭和31年4月2日以後生まれの方) | 847,300円 |
| 子の加算額(1人目・2人目) | 各243,800円 |
| 子の加算額(3人目以降) | 各81,300円 |
| 子のある配偶者が受け取る額(子1人) | 1,091,100円(当サイトの計算) |
| 子のある配偶者が受け取る額(子2人) | 1,334,900円(当サイトの計算) |
遺族厚生年金
- 対象:厚生年金に入っている間に亡くなった場合などに、亡くなった方に生計を維持されていた遺族のうち、いちばん優先順位の高い方。順位は、子のある配偶者、子、子のない配偶者、父母、孫、祖父母の順です(日本年金機構)
- 金額:亡くなった方の老齢厚生年金の報酬比例部分の4分の3が基本。厚生年金の加入期間が300月(25年)未満の場合は、300月とみなして計算されます。収入が高く、加入期間が長いほど多くなります
- 加算:一定の要件を満たす妻には、40歳から65歳になるまで「中高齢寡婦加算」が加算されます(金額は日本年金機構のページで確認)
自営業の方など、国民年金だけに入っていた方が亡くなった場合は、遺族基礎年金が中心です。会社員・公務員など厚生年金に入っていた方の遺族は、遺族厚生年金もあわせて受け取れることがあります。
2028年4月からの見直し
厚生労働省によると、2025年6月13日に改正法が成立し、2028年4月から、子のない配偶者への遺族厚生年金が見直されます。18歳年度末までの子がいない場合、原則5年間の有期給付になる対象が広がり、男性は60歳未満、女性は2028年度末時点で40歳未満が主な対象です(有期給付の間は給付が上乗せされ、障害状態や収入が十分でない場合などは、5年経過後も継続して受け取れます)。すでに遺族厚生年金を受給している方、60歳以降に受給権が発生する方、18歳年度末までの子を養育している間の方は、影響を受けません。詳しい内容は厚生労働省のページでご確認ください。
必要保障額の考え方
生命保険文化センターは、万一のときに必要な保障額を考える方法の一つとして「必要保障額積み上げ方式」を紹介しています。支出見込額(必要となる金額)から、収入見込額(将来期待できる収入金額)を差し引いた不足分を、必要保障額の目安とする考え方です。
| 含まれる項目(生命保険文化センターの事例) | |
|---|---|
| 支出見込額 | 生活費、保育費・教育費、結婚資金、住居費用、葬儀費用、お墓代など |
| 収入見込額 | 公的保障(遺族年金など)、自己資産、配偶者の就労収入・事業収入、退職金など |
ここで前の章の知識が使えます。遺族年金は、収入見込額に入るため、公的保障を知らないと、必要保障額を大きく見積もってしまいます。次の表は、計算の流れを示す説明用の架空の数字です。
| 項目(架空の例) | 金額 |
|---|---|
| 支出見込額(生活費・教育費・葬儀費用など) | 6,000万円 |
| 収入見込額①:遺族年金などの公的保障 | 2,500万円 |
| 収入見込額②:配偶者の就労収入 | 1,500万円 |
| 収入見込額③:自己資産 | 500万円 |
| 必要保障額の目安(支出 - 収入) | 1,500万円 |
子どもの成長とともに教育費などの支出見込みは減っていくため、必要保障額は年とともに変わります。ライフステージが変わるとき(結婚・出産・住宅購入・独立など)に見直すのが基本です。実際の金額は、家族構成・収入・加入している年金によって人それぞれ違います。
生命保険の種類:定期・養老・終身
生命保険文化センターは、死亡保障の主な3種類の違いを次のように説明しています(30歳契約・死亡保険金1,000万円・60歳まで払い込みの比較例)。
| 種類 | 特徴 |
|---|---|
| 定期保険 | 保険料が比較的少なく、多くの保障を準備しやすい「保障機能」に優れる。貯蓄性はない |
| 養老保険 | 満期を迎えると、死亡保険金と同額の満期保険金を受け取れる「貯蓄機能」がある |
| 終身保険 | 保障が一生涯続き、解約すると解約返戻金を受け取れる「貯蓄機能」がある |
注意したいのは、養老保険と終身保険の貯蓄機能は、預貯金のように増えて戻るとは限らないことです。生命保険文化センターは、終身保険について「保険料払込期間中に解約した場合は保険料払込総額を下回ることがほとんどです」と説明しています。つまり、早く解約すると元本割れになることが多い商品です。
必要保障額の考え方でいえば、「期間を区切って大きな保障が必要」な時期には保障機能が中心の保険、「一生涯の保障や貯蓄も兼ねたい」場合には貯蓄機能もある保険、というように、何を優先したいかで選び方が変わります。どの保険が合うかは、家族構成や貯蓄の状況によって違うため、当サイトは特定の保険を勧めません。
加入前に確認したいこと(クーリング・オフなど)
- 保障の内容と保険料:何が保障され、何が対象外なのか。保険料はいつまで払うのか。契約前にもらう資料(設計書・契約概要など)で確認します
- 解約返戻金の推移:貯蓄機能のある保険は、経過年数ごとの解約返戻金が払込保険料の総額を下回る期間がないかを確認します
- クーリング・オフ:生命保険文化センターによると、「クーリング・オフに関する書面」を受け取った日と申込日のうち遅いほうの日から数えて、その日を含めて8日以内が一般的です(10日、15日、30日などに延長している会社もあります)。医師による診査を受けた契約や、保険期間が1年以内の契約などは対象外です。取扱いは会社・商品・払込方法で異なるため、各社に確認します
見直しのチェックリスト
| 確認すること | 理由 |
|---|---|
| 自分の高額療養費の区分(年収の目安) | 月の上限額・年間上限が区分で変わる。加入先の保険者で確認できる |
| 加入している健康保険に傷病手当金があるか | 協会けんぽなどにはあるが、加入先によって給付が違う |
| 子の有無と、年金の加入状況(国民年金のみか、厚生年金か) | 遺族基礎年金は子のある配偶者・子が対象。遺族厚生年金は厚生年金の加入が前提 |
| 公的保障を引いた必要保障額 | 支出見込額 - 収入見込額(遺族年金などを含む)で不足分が分かる |
| 今の保険の保障内容と、解約返戻金 | 必要以上の保障がないか、解約すると払込総額を下回らないかを確認するため |
| ライフステージの変化 | 結婚・出産・住宅購入・独立などのたびに必要保障額が変わる |
出典・注意書き
基準日:2026年10月時点(各ページ・資料は2026年10月28日に確認)
- 厚生労働省「高額療養費制度を利用される皆さまへ」(2026年7月31日更新・令和8年8月の見直し):https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryouhoken/juuyou/kougakuiryou/index.html
- 厚生労働省「(参考)高額療養費制度の見直しについて」(現行・令和8年8月〜・令和9年8月〜の上限額の一覧):https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001661792.pdf
- 厚生労働省保険局「高額療養費制度を利用される皆さまへ」(リーフレット・対象外の費用、世帯合算):https://www.mhlw.go.jp/bunya/iryouhoken/iryouhoken13/dl/100714a.pdf
- 全国健康保険協会(協会けんぽ)「傷病手当金」:https://www.kyoukaikenpo.or.jp/benefit/injury_and_sickness_allowance/index.html
- 日本年金機構「遺族基礎年金(受給要件・対象者・年金額)」(2026年6月22日更新):https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/seido/izokunenkin/jukyu-yoken/20150401-04.html
- 日本年金機構「遺族厚生年金(受給要件・対象者・年金額)」(2026年6月22日更新):https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/seido/izokunenkin/jukyu-yoken/20150424.html
- 厚生労働省「遺族厚生年金の見直しについて」(令和7年6月30日更新):https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000147284_00020.html
- 生命保険文化センター「必要保障額の考え方」:https://www.jili.or.jp/lifeplan/lifesecurity/provision/10.html
- 生命保険文化センター「定期保険・養老保険・終身保険の違いは?」:https://www.jili.or.jp/knows_learns/q_a/life_insurance/8797.html
- 生命保険文化センター「終身保険(主契約の種類)」:https://www.jili.or.jp/knows_learns/kind/main/37.html
- 生命保険文化センター「クーリング・オフ(生命保険に関するQ&A)」:https://www.jili.or.jp/knows_learns/q_a/life_insurance/149.html
ご注意
- この記事は制度と仕組みの一般的な解説で、特定の保険商品をすすめるものではありません。保険の加入・見直しの最終判断は、ご自身でお願いします。
- 公的制度の金額や条件は改正されることがあります。個人の受給額や自己負担額は、加入している健康保険・年金事務所・市区町村などにご確認ください。必要保障額の計算例は説明用の架空の数字です。
- 貯蓄機能のある保険(終身保険・養老保険など)は、途中で解約すると、解約返戻金が払い込んだ保険料の合計を下回る(元本割れ)ことがあります。